下高井戸シネマ(世田谷区松原3、TEL03-3328-1008)は1月8日から、17年間にわたり落語家・笑福亭鶴瓶さんに密着したドキュメンタリー映画「バケモン」を上映する。俳優の香川照之さんがナレーションを担当する1時間59分59秒の作品。
映画は、コロナ禍の最中にあった2020年、大阪市内にある寄席小屋で、4カ月ぶりに小さな落語会を開くところから始まる。NHK「鶴瓶の家族に乾杯」をはじめ、テレビやラジオの世界でタレントとして活躍する鶴瓶さんは、全国各地のホールで独演会を開く落語家でもある。
監督の山根真吾さんはテレビのディレクターだが、2004(平成16)年から鶴瓶さんの姿を映像で追い続けてきた。「俺が死ぬまで世に出したらあかん!」と念押しされてはいたが、その言葉を「逆に言えば死ぬまで撮っていてもいいということ」と解釈し、撮影してきたという。
それを編集してドキュメンタリー映画を作り、観客を勇気付け、コロナ禍で苦境に立たされている全国のミニシアターを救いたい。そんな目的で、配給会社と鶴瓶さんの所属事務所が共同で企画し、鶴瓶も「分かった」と許諾したことで、いわばシークレット映像が日の目を見たかたちになる。
ミニシアターを救うという思いに至ったのには理由がある。鶴瓶さんは2009(平成21)年、「ディア・ドクター」(西川美和監督作品)で映画の初主演を務めている。人のいい山村の村医を主人公にした作品は、全国の個人経営の映画館やミニシアターを中心に上映され、大きな話題になった。
「バケモン」には、そんな鶴瓶さんがコロナ禍に苦悩しながらも、落語に取り組もうとする真摯(しんし)な姿が映し出される。師匠は上方落語の四天王の一人に数えられる六代目笑福亭松鶴さん(故人)。2004(平成16)年、松鶴の十八番だった「らくだ」を初演した鶴瓶さんは、17年後の2020年にも、この大ネタに再び向き合い、善と悪、強い者と弱い者が途中で逆転して、困難な中に希望を感じさせる噺(はなし)を演じきる。
カメラはそんな大ネタと丁寧に向き合う姿を映し出し、そこに出先での珍エピソードや、数多の人々との出会いや会話が、縦横無尽に凝縮される。さらに「ディア・ドクター」で共演した香川照之さんのナレーションがメリハリをつける。笑ったり涙したりしているうちに、あっという間に1時間59分59秒が過ぎてしまう仕組みだという。
コロナ禍で苦境に立たされた全国の小規模映画館を救うために、入場料を全て上映館に提供するという極めて異例の試みを行っているのも、同作品の特徴。観客が多ければ多いほど、上映館の助けにもなる。
上映は、1月8日~21日(8日~14日=9時30分~、15日~21日=15時20分~)。東京の寄席興行の世界では、1月1日~20日を「初席」「二ノ席」と呼び、正月の特別興行が行われている。ちょうどその時期に下高井戸シネマで上映することから、「初笑いはここで」と決めている人もいるという。