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世田谷文学館で「描くひと 谷口ジロー展」 「孤独のグルメ」など自筆原画展示

「歩くひと」「孤独のグルメ」など1990~2000年代の作品を展示したコーナー

「歩くひと」「孤独のグルメ」など1990~2000年代の作品を展示したコーナー

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 世田谷文学館(世田谷区南烏山1、TEL 03-5374-9111)で10月16日、「描くひと 谷口ジロー展」が始まった。2017(平成29)年に他界した漫画家・谷口ジローさんの貴重な自筆原画300点余りを展示する大規模個展となる。

「『坊っちゃん』の時代」  ©PAPIER

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 谷口ジローさん(1947-2017)さんの漫画作品は、言葉の壁を乗り越えて多くの人に愛されてきた。特に1990年代以降の作品「歩くひと」「犬を飼う」「父の暦」「孤独のグルメ」「ふらり。」などには、ゆっくりした時間、日常の愛おしさ、人間の強さや尊厳のようなものが精緻な画風を通して描かれている。連載されたのは主に青年コミック誌だったが、女性ファンも多かった。

 世代や性差を越えて楽しむことができる「大人の漫画」は、フランスの知識人の心をとらえ、海外の読者も増やした。

 一朝一夕に画風を確立したわけではない。アシスタントを経て1970年代に漫画家としてデビューした当時は、密度の濃い画風による劇画を得意にしていた。

 転機になったのは、関川夏夫との共作「『坊っちゃん』の時代」シリーズ。明治の世を生きた夏目漱石、森鴎外、石川啄木らの姿を、9年の歳月をかけて追い続けた作品だ。それまでの劇画とは全く異なる余白の多い画面、それでいて家の屋根にのる瓦一枚まで省略せずに描き込み、明治期の東京の人々の暮らしや風景を作品の中に再現。この作品で、日本漫画家協会賞優秀賞、手塚治虫文化賞マンガ大賞などを受賞して第一線に躍り出た。

 原作者にも恵まれ、夢枕獏原作の「神々の山嶺」、川上弘美原作の「センセイの鞄」、久住昌之原作の「孤独のグルメ」などが生まれた。題材は幅広く、江戸期や明治期の歴史や時代を描いた時代物、現代のごく当たり前の日常を描いたもの、犬など動物の生態を描いたもの、登山を描いた山岳物、さらに氷河期の地球を描いたSF的な作品もある。その都度、新しい表現方法にチャレンジし、漫画の可能性を広げてきた点も大きな功績として評価される。

 今回の個展では、谷口作品の幅の広がりや変化を実感できるよう、自筆原画などを1970年代のものから時系列に展示する。劇画作家として活躍していた初期の濃密な原画と後年の「孤独のグルメ」などとの作風の違いがわかる。「『坊っちゃん』の時代」のコーナーには関川夏夫さんによる漫画台本も展示し、これを谷口さんがどのように読み取り、作品化していったのかを想像することもできるようにした。漫画原画のほか、キャラクターラフや動物スケッチなども展示。仕事部屋の間取りや使っていた丸ペン、原稿用紙を展示するコーナーもある。

 開館時間は朝10時~夕方18時(入館は17時30分まで)。入館料金は、一般=900円、65歳以上・大学・高校生=600円ほか。月曜(祝日は開館し翌日休館)と年末年始は休館。2022年2月27日まで。

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