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世田谷美術館で「グランマ・モーゼス展」  古き良き時代のアメリカ農村描く

農村の暮らしを描いた作品と共に作家による手作りのキルト(布)などを展示したコーナー

農村の暮らしを描いた作品と共に作家による手作りのキルト(布)などを展示したコーナー

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 モーゼスおばあさん(グランマ・モーゼス)の愛称で親しまれ、101歳で亡くなるまで身近な農村風景を描き続けたアメリカの国民的画家、アンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼスの生誕160年を記念する特別展が現在、世田谷美術館(世田谷区砧公園1)で開催されている。

「アップル・バター作り」アンナ・メアリー・ロバートソン・“グランマ”・モーゼス 1947年 個人蔵(ギャラリー・セント・エティエンヌ、ニューヨーク寄託)(c) 2021, Grandma Moses Properties Co., NY

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 無名の農婦だったアンナ・メアリー・ロバートソン・モーゼス(1860-1961)が本格的に絵を描き始めたのは70代のこと。80歳の時、ニューヨークで初めての個展を開き、やがて全米でその名を知られるようになる。100歳の誕生日にはアイゼンハワー大統領から祝いの手紙が届き、「ライフ」誌の表紙を飾るほどの存在になった。

 作家が生まれたのはアメリカ東部のニューヨーク州グリニッジ村。1860年は、日本でいえば幕末の時代で、アメリカの農村にはまだ電気もガスもない。そこから101年間の生涯をほぼこの地域で暮らした。生きるために家族や地域の人々と力を合わせ、自分たちで何でも作るのが当たり前。農作業の傍らで、春はせっけん、夏の終わりには名産品のアップル・バター、冬にはメープルの樹液から砂糖を作った。そうした古き良き時代の生活をこよなく愛し、記憶や思い出を頼りにのどかな暮らしを描き続けたところに、モーゼスおばあさんの作品の特色がある。

 独学で学んだ風景画は、遠近法などのテクニックとは無縁のフラットな画面。そこに家並や畑の様子、村で暮らす人々、家畜などの姿をていねいに描写する。独特で優しいノスタルジックな画風は、村で暮らした人々を生き生きと今に伝える。

 1927年、67歳で最愛の夫を亡くしたモーゼスおばあさんは、子育てを終えた70代になって、娘の助言を受けて最初は刺しゅう絵、後に油絵を描き始めた。それが偶然、通りがかりの画商の目に留まったのをきっかけに、1920年代の大恐慌、1940年代の大戦争で疲弊した人々の心をつかみ、世界的な名声を博すことになる。

 著名になった後もおばあさん(グランマ)の暮らしは変わらない。会場で1950年、90歳のころに撮影されたドキュメント映像を見ることができるが、そこには農業に従事する孫たちをねぎらい、幼い子どもたちに語らい、キッチンに立って自分で飲み物などを用意するかくしゃくとした姿が映し出されている。

 92歳の年に出版された自伝の中で、「もし絵を始めていなかったら、養鶏でもしていたことでしょう。今からだってまだできますよ」とも語る。

 人々が機械や物質に頼らずに生きた古き良き時代のアメリカの農村。その風景を101歳で亡くなるまで淡々と描き続けた作家の回顧展が開催されるのは16年ぶりのこと。日本初公開の作品を含む130点のほか、作家手作りのキルトや子ども服、家族写真なども展示されている。

 開館時間は10時~18時(入館は17時30分まで)。月曜(祝日は開館し翌日休館)と年末年始は休館。2月27日まで。

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